時は2月14日。
世の中の男はこの日を待ち通しにしている(はず)。
身近にはこの日を楽しみにしているヤツが居た。

「みんな!今日は何の日ーィ!?」

生徒会室のドアを勢い良く開けて入って来たのはリウだ。
いつにも増してハイテンションだった。

「……」
「…今日って…1月14日?」
「あーちょうど寒い日だねぇ」

神凪と有樹が立て掛けてあるめくり忘れたカレンダーを見て言う。
しかもそのまま会話を続けていた。

「誰かカレンダーめくろうよ…今日1月じゃないし2月じゃないしウェルカム雪!!」
「暇じゃないんだよ。お前みたいに」
「ヒドッ!俺はさ!ちゃんとブラックカードクリアしたんだよ!!なのになにその仕打ち!ヒドくね?!つかヒドいよね!自覚して!!」
「ー…そういえばさ、こんな展開前にもなかったっけ?」
「…あった」
「リィ…おまえって」

『単純なのな(なのね)』

「……みんなしてさぁ、俺をイジめてるわけェ?」
「あ。カレンダーめくっといて」
「りょーかーい」
「…ねぇ、聞いてる?」
「神凪、コレよろしく」
「おけ」
「…おーいみんなー」
「黎、ココどうなってる?」
「あぁ、ここは…」
「あれーみんな聞こえてないかなーオレ居るよー。あっ!見てみてホラ!こんなところからタ○コプターなんか出せちゃうんだぜ凄くねオレ凄くね?!」
「ぁ、有樹。なんかあの辺蝿が飛んでるみたいだから殺虫剤思いっ切し撒いといて」
「はーいっ」
「コラコラー蝿じゃないぞー。あ、ちょ!ホントに撒かないで!!」
「黎ーしぶといコイツー」
「ぇ。ガチ?ガチなのコレ人間扱いされてない感じ?人間だよ!私は今日も元気に生きています!!」

そんなリウイジりをしていると、生徒会室のドアが聞き慣れた声と共に開いた。

「失礼しまーす」
「あ!りっくん!」

ドアを開けて入ってきたのは霧原兄弟の真ん中、陸だ。

「コレ、委員会のプリントなんですけど」
「あぁ。ありがとう」
「ねぇねぇ、今日って何の日か分かる?」
「今日?…は」
「ぁ」

カレンダーをめくっていた有樹がコレ、と言って指差したのは、はなまるが付いている14日だった。
そのはなまるの雑さを見るとコレを書いたのはおそらくリウだろう。

「…そういえば、私朝チョコ鞄の中に入れたのすっかり忘れてた!!」
「忙しすぎてそんなこと忘れてたな」
「そう!まさしく今日はバレンタインデー!女の子が男の子にチョコをあげる日!」

腕を広げながら、どこかのホスト部の部長を思い出させるこの光景。
そんな事をしている時にリウの目線に大袋を背負った有樹が目に入った。

「…ぇ。有樹、ソレなに??」
「サンタクロースみたいでしょ!!」
「いやそうじゃなくって、中身何??」
「…もしかして…」
「ん?もちろん、チロルチョコだよー!」

有樹がその大袋を逆さにした瞬間、大量のチロルチョコが袋から出てきた。
その光景を目にした時、全員に去年の記憶が蘇った。

「……今年も…コレ、か」

リウが項垂れる。
毎年有樹のチョコは大量のチロルチョコとひとつのお礼チョコだった。
お礼チョコとは、その月にお世話になった人に送られるチョコだ。
ちなみに去年は神凪、一昨年は黎、その前は灰、とお礼チョコは一応生徒会メンバー内でも貰った人は居た。
ー1人を除いては。

「はぁ…オレの努力は…」
「また今年もダメだったな」
「みんなで食べよう?」
「ホラ、灰だてあんなに必死で食べてるんだよ?」

ものすごい形相でチロルチョコの紙を剥がしていく。
そして口に入れようとするも、手が進まない。
が、決心が付いたようで口に入れた。
その瞬間灰はそのまま固まり動かなくなった。

「あ。死んだ」
「甘いものダメなのに無理するなよな」
「でも、1人1個最低でも食べなきゃいけない決まりだしね」
「さぁ、あとはコレをどう分配するか…」
「とりあえず、3等分しよう」

神凪の提案で神凪と黎とリウで分けていく。

「…ねぇ、おかしくない?」
「…何が?」

どう見てもおかしいこの分け方。
神凪5、黎1.5、リウ3.5という感じ。
神凪の目の前にも明らかに3等分されていないようなチロルチョコの山があった。

「だってお前好きだろ?チョコ」
「いや、そうだけど…コレ一体何個あると思ってー」
「…いけるだろ。お前ならさ!」

黎の悪魔スマイルが発動した。
その笑顔には誰も逆らえない。
そんな状況の中、有樹が思い出したように陸に話をふる。

「そうそうりっくん」
「ははははいッ?!」
「実はね、りっくんには別にチョコ用意してあるんだ」
「あー今回はりっくんかー」
「諦めろーよっ」

呆けているリウを貰ったプリントで思いっきり殴る。

「…はっ!ぇ何!!…りっくん…貴様かぁ」
「ぇぇええそんな別に…オレ、何かしましたっけ?」
「傘」
「…へ?」
「傘、、貸してくれたでしょ?」
「…ぁ」
2月に入った頃、朝は晴れていたのに帰りには大雨に見舞われていた。
陸はちょうど傘を持っていて帰ろうとしたところに、困っている有樹を見かけて話しかけたのを思い出した。

「そういえば…」
「ね?だからそのお礼に!」
「…ちくしょうオレのこの13日の努力は全て無駄にッ!」
「何したの?」
「それはもうあれやこれやそれや」
「コイツ、地味ーにいろいろやってたよ。でもそれに有樹は気付かなかったんだな。地味すぎて」
「…来年からはもと派手にやってやるちくしょぉぉおおおお」
「…あ。行っちゃった」

リウは生徒会室から捨て台詞を残して泣きながら生徒会室を後にした。
ちゃんと貰ったチロルチョコを持って。

「…じゃ、後で渡しに行くからね!」
「あ、はいっ」

リウの話を聞かなかったことにして話をそのまま続ける。
陸はまだ話が夢のようでまだ半分信じきれていなかった。

「とりあえず、失礼します」
「あ、プリントありがとう」

パタンとドアが閉まる。
そして一目散に屋上へ足が動いていた。
屋上に着いた途端口から出た言葉。それは――

「よっしゃぁぁぁああああ!!!」
「……何がよっしゃあ?」
「ゲッ…兄貴…」
「有樹にチョコでも貰った?」
「ははははぁべべべつにそんなことねねねえし」
「…良かったね」
「うううるせぇ!!」

そのまま屋上を後にし、チャイムと共に教室に戻っていった。





*     *     *






今日の授業が終わり、本当かどうか信じきれていないまま教室で10分ほど待った。
しかし有樹が来る様子もなく、勇気を出して生徒会室を覗きに行った。
だが声を掛ける事も出来ず、向こうにも忙しさで余裕がなかった。

「…帰るか」

結局チキンが勝ってしまい、帰ると決めた。
そのまま校門までとぼとぼと歩いていく。
いつもならこの広い敷地でも校舎から校門まで5分くらいで行けるのに、今日はゆっくり歩き10分もかかってしまった。

「…ぁ。雪だ」

ちょうどその時間帯は雪が降っていた。

「傘ないし、いっか」

そのまま雪の中歩いていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「おーいりっくーん」

息を切らせながら走ってきたのは有樹だった。

「有樹さんっ?!」
「ごめんっ。なかなか仕事抜けらんなくて…」
「あ、いや」
「しかも教室にもいないし…」
「ぁ。すいません」
「でもよかった!追いついて…はいコレ!」

手渡されたのはきれいに包装されているチョコレートだった。

「あ…ありがとう、ございます…っ!」
「んーんっ。こちらこそ!…あ。お返しは、おいしいものでお願いします!ねっ」
「……はい……って、え?」
「じゃあねー!」
「ぇ、あ」

そのまま有樹は行ってしまった。
ノリで『はい』とは言ったものの陸は混乱していた。

「ぇ。おいしいもの?」

=オレは包丁を握らなければならなかった。












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無駄に長くなりました。くだらないこと書きすぎた。
コレちょっと3月に少しつながります。ホワイトデーネタとして。
霧原家にはいろいろちょっとした事情があります。
それは3月を見てくれれば分かるかと…。
10/02/19 (Fri) 藍月 廉


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