季節は秋。
9月中旬に控えた文化祭の関係で、生徒会は二学期が始まってから忙しい日々が続いていた。
中旬には文化祭、その後には体育祭を控え10月にはテストが待ち構えている。
そんな文化祭と体育祭を終え、テストに向かって勉強している現在10月中旬。
毎日が忙しいわけではなく、9月のように行事が重なってたり連続してあったり、学校全体で大きなイベントが行われる時は忙しくなる。まあそれ以外にもこの学校ならではの悩みやトラブルも起こることも少ない訳ではない。いや寧ろ多いのだが、何だかんだ言ってこの仕事も学校もわりと好きだ。
「こんな感じて良いかあ?」
文化祭や体育祭の様子をまとめたちょっとした新聞を生徒会が書くことになり、パソコンで作業していたリウが大きく伸びをした。
「いいんじゃない?」
神凪が横から覗き込み、こんなものでしょ、と頷いた。
会長からの許可が下りたのだ、あとは顧問に許可を貰うだけである。
全ページを印刷し、プリンターから出てきたそれを持って全員に聞こえるように言いながらドアの取っ手に手をかけた。
「んじゃあ先生に許可もらってコピーしてくるわ」
「手伝うよ」
課題をしていて煮詰まった有樹が名乗りを上げた。気分転換をしようと思ったのだろう。これ幸い、という顔をしてシャーペンを机の上に放り出しドアへ向かった。
「ついでに何かあったかいもの買ってこようかな」
「あ、僕も行く」
最近寒いし喉乾いたし、神凪がそう言って席を立つと「俺も行く」と灰が立ち上がる。
神凪いるところに灰あり、なんて。
「じゃあ私とリウでコピー、神凪と灰で買出しで。黎は行く?」
「それか何か買ってこようか」
有樹と神凪が続いて問いかける。皆が出入口に向かうのを見ずに書類を眺めていた黎は声がした方に視線をずらして答えた。
「ああ、じゃあ俺も飲み物」
お茶類ならなんでもいいからと付け足し、りょーかーい、やらいってきまーすと笑って出ていく4人をひらりと手を振って見送る。
人がいなくなり、静かになった生徒会室は少し物寂しい。
視線をまた書類に戻し眺めていたが、暫くして溜め息を吐いて少し高めの天井を仰ぐ。
ぼんやりと、白い天井を眺めているとここ最近の記憶が蘇ってきた。
バカ騒ぎした文化祭、白熱した体育祭。
(楽しかった)
皆で小さなことで一喜一憂した。喜んだ顔や落ち込んだ顔を思い出して思わず笑みが零れる。
でも、
(忙しかった)
楽しいことは一瞬なのに、準備し忙しい期間は長い。それを思い出し思わず苦笑する。きっともう少し時間が経てばそれも楽しい思い出に変わるだろう。
ふ、と意識が引っ張られるような感覚がした。
疲れたのだろうか。眠気が襲ってきて意識が浮き沈みする。
心地よい眠気に誘われて机に突っ伏してゆっくりと目を閉じ、意識を手放した。
*
「ただい、」
ま、と続くはずだった有樹の言葉はリウが口を手で塞いだため遮られた。
何するのっという意をこめて振り返ると人差し指を口にあてているリウがごめん、と笑った。
「静かに」
不思議そうに首を傾げる有樹に指を差し、示す先にはうたた寝をしている黎。
「珍しいね」
「神凪、灰」
買い出しから戻ってきた2人は先に戻ってきたリウと有樹の後ろから部屋を覗いていた。
4人は机の上に買ってきた飲み物、コピーした新聞を置き黎へ近づくと、じいと見つめる。
「…起きないね」
「よっぽど眠かったのか」
「最近忙しかったからな」
「疲れ、溜まってたんだ」
しん、と静まり返る。
思い返せばあれやこれやと何でもこなしてくれるのはいつも黎だった。
時々ふざけすぎる自分たちにストップをかけるのも黎。
少々、頼りすぎていたのかも知れない。
「よし」
神凪が思いついた、という顔をして買ってきたもののひとつを手に取る。
「これ、有樹のだっけ?」
「うん」
「貰っていい?」
僕の分あげるから、と言われ「いいよ?」と答えたものの、首を傾げる有樹に微笑みかけ「誰か油性ペン貸してー」と言う。
「ほら」
灰が素早くペン立てから取り出し、神凪に手渡す。
「ありがと」
受け取り、手に持っていた缶に何かを書き出す。他の3人は不思議そうに見ていると、書かれたそれを見て笑った。
「それ、気付くかあ?」
「飲むときに気が付けばいいよ」
今気付いても恥ずかしいしね、と神凪は照れ臭そうにリウに笑って言う。
「ほんとに、そうだもん」
「直接言うのも今更だしな」
笑う有樹と灰にもはにかんで、「ま、今はこれでいいでしょ?」と言った。
「そっれにしてもホント珍しいよな〜」
レアだレアレア、と連呼しながら黎をじろじろと見ていたリウが途端、にやりと悪役の顔になって3人を振り返る。
「写真撮っておこうぜ」
す、とどこに持っていたのかデジタルカメラを取り出して言った。
「いいね!」
「僕も〜」
携帯のカメラ起動させ、神凪も有樹もスタンバイする。灰は呆れたようにそんな3人を後ろから見ていた。
パシャ、と3つのシャッター音が重なったとき、黎が起きだした。
慌てて隠したカメラには寝起きの黎にはバレなかったようだ。
「…何してんだ?」
訝しげに問う黎に口をそろえて
「何でもない」
と言うと机の上の書類やパソコンを片付けだした。いつもより早い片付けに黎は不思議そうにしながらもつられて周辺の片付けを始める。
「いつもより早くないか?」
「気にしないきにしないっ」
「たまには早く帰ろうぜ」
「ほら、それ貸せよ」
「はいっこれ黎の鞄」
差し出された鞄を受け取った時には片付けが終わり、早々に生徒会室を後にした。
そこからはいつも通りの帰り道。
違うのはいつもより少しだけ日が高い、というだけ。
「じゃあね」
「また明日ー」
「気をつけてな」
いつもと変わらぬ帰り道。いつもと同じ所で別れ、ひとり夕陽に照らされた道を自転車を引いて歩く。
暫く行った所で鞄を自転車の前カゴに入れたとき、コン、という音がした。
「?」
見に覚えのない音。そんな音がするもの入れたかと考えると、はやり覚えがない。思い返せば帰る前、生徒会室を出る前に鞄の中身を確認していなかった。
音の犯人を探し出そうと鞄の中を探ると、あたたかいものが触れた。取り出してみると黄色い缶。赤字でホットレモンと書かれていた。
「…お茶じゃねえじゃん」
思い出した。寝る前に買出しに行く神凪と灰にお茶を頼んだのだった。結局お茶ではなくホットレモンだが。
苦笑して鞄に戻そうと缶を持ち直したとき、黒文字で何か書いてあるのを見つけた。
それを見て神凪の字だと解った。よく見ると書かれていたのは
お疲れ様、ありがとう
呆然と文字を見つめる。
なんだ、もしかして気にしてたのか。
くす、と笑いよくよく見ると端のほうにもう一言こう書いてあった。
『ホットレモンはおごりだから!』
思わず、吹き出した。
「だから、頼んだのはお茶だって」
まだあたたかい、缶の蓋を捻って開け一口飲んだ。
程よい甘さで、優しい味がした。
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つまり有樹が買ったのはホットレモンだったと。
お茶の缶より黄色い缶に黒字の方がわかりやすいだろ!っていう事です。意味解らん…
09/10/30 (Fri) 観月
お題お借りしました →rewrite 優しい君へ5のお題
photo by空色地図