12月後半、町はクリスマス一色に染まっている。
が、ここにクリスマスモード0の空間があった。
そこは水鏡学院の生徒会室に存在した。
「……あーっ!!!もうやだお菓子食べる!!」
「おい頑張れよ会長サマ」
「……はぁ」
生徒会室には今、計4人のメンバーがクリスマスだというのに必死に書類にペンを走らせている。
「ねぇ」
「何?有樹」
「1人、足りないよね?」
「……そうだな」
今日に限って金髪のハイテンションなやつが居ない。
――というかいつも居ない。でも、今日は強制出勤のはずだ。
「…誰がリィに今日は絶対来い!って言った?」
『………』
「…あれ?」
「ま、待って!俺言った…ような気が、す…る」
「あぁ、言ってた」
「あぁぁぁホント!?よかった…うん、言った(らしいよ)!」
「ぇーじゃあなんで来ないんだろー」
「忘れてんじゃないか?」
「平和だねぇ。もうきっとクリスマス気分一直線なんだよ」
『…あのやろう』
みんなで声を揃えた後、会話が切れまた黙々と溜まった仕事をこなす。
と、そのとき。勢い良くドアが開いた。
『ぁ』
全員がドアの方を見る。そこに立っていたのは先ほど話していたリウだ。
「みんな!!今日は何の日ーぃ!!?」
『………』
「…あれ。なにこのシーンと静まり返ったいかにもお前場違いだよてきな空気。ぇ。何、なんでそんなに冷たい目で見るの!!」
『…仕事しろよ』
また声がハモった。その台詞はトゲトゲしくて、しかも冷たく突き刺さるような視線と一緒にリウに降って来た。
リウが仕事をしないのはいつものことだ。でもクリスマス直前のこの時期、仕事は山詰め。
5人でも手一杯なのにそれをこんなハイテンションで意味わからない事を言われると、どうしてもこんな顔になってしまう。それも人間の本望だ。
「怖いっスよ〜…特に副会長サマ…」
「お前がやらない仕事は全部俺がやることになるんだよ。分かってんのか?」
「ぁ…もうマジですいませ――」
「俺のケーキ…俺のケーキが…引換券3時までなのに…俺の大事なクリスマス限定特大ケーキが…」
「ぇ。あの、ちょ…神凪?」
「やばい。神凪のケーキに対する執着心が…暴走してる…!」
「おーいなにソレー!!そんな真面目な顔して何言ってんのさー!ちょ、次元歪んで――」
「神凪。ホラ」
黎が次元の歪みなんかものともせずに、神凪に近づいて行き口にアメを放り込んだ。
すると歪みが消え、いつもの神凪に戻る。
なぜ黎が歪みの上を歩けたかというと、黎の能力は無効化だからだ。
「む。いちごだ〜」
「はぁ…。全くお前は、手の掛かる会長だこと」
「はははー。いつもありがとー黎。頼りにしてるよ副会長!」
「どーも」
「よーしじゃあこの調子で仕事終わらせて副会長!」
「お・前・も・だ」
ぐわしと逃げようとする神凪の制服を掴み、捕獲する。
「よし、じゃあ全員で早く片付けるぞ!」
『はーい』
「ちょっと待って」
「…どうした?」
折角黎がまとめた空気を一気に断ち切る。
全員の視線が神凪に向けられた。
「…結局俺のケーキは無駄…?」
「……」
「神凪…あきらめよ?」
「…折角っ…2時間並んで貰った引換券を…無駄になんて――」
「よーっす!やってるかー?」
「コレ差し入れだよー!」
…生徒会室は基本フリーダムだ。生徒会メンバーと友人関係であれば入ってきても良いという条件で成り立っている。
今日は、馨護と蘿音。この2人は中が良い。家が隣で幼馴染という極ありきたりな環境で育った。
謂わば『友達以上、恋人未満』という関係。
「あーりおんー!!」
「うたー!お疲れさまー!」
仕事で疲れきっていたときだったから、有樹にとって蘿音は何故か救世主に見えた。
りおんりおんー!と言って2人でぎゅうぎゅうしている。
「けーご久しぶりじゃん!」
「あー…サボってた!」
「お前…それで大丈夫なのか?」
「さぁ?まぁなんとかなるっしょ!」
手を頭の後ろで組みにかっと笑いながらすごい阿呆なことを抜かしている。
こんな性格だからこその馨護なんだな、とそれは皆が納得していることだ。
「……ところでさ、あそこの会長はどうなさったの?」
「あぁ。クリスマス限定特大ケーキの引換券が、3時までなんだそうだ。でも仕事があって抜け出せない、と」
「それってさ、ふわふわアフロの店長がやってるケーキ屋?」
「うん。そこ」
「じゃあ俺行って来てやろうか?」
「…ホントに??」
「あぁ。任しとけ!」
「うわぁぁぁあああけーご大好きー!!!」
思わず馨護に抱きつく神凪の頭をよーしよーしと言いながら軽く撫でる。
「―――よしっと。じゃあ俺ちょっくら行って来るぜ!」
「あ、あたしも行くよ!」
「んーありがとー!」
「じゃな!」
バタバタと生徒会室を出て行く。
後姿を見ながらふと考える。
「……あの2人って仲良いよね」
「…そうだな」
「付き合ってたりするのかな??」
「違うだろ」
「だよねー!」
あははは、と笑いながら現実に戻る。
そしてまた仕事を続け、徐々にペースは上がっていった。これも馨護と蘿音のおかげなのか。
そして気づけばリウは寝てしまい、時間は5時を回っていた。
なんとか仕事が片付き、神凪が理事長に報告し行った。
10分ほどして、神凪が怪しい紙とともに帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり神凪。…なにそれ」
「…伝説のブラックカード」
「…誰に?」
「もちろん」
全員の視線が寝ているリウに降り注ぐ。
「…マジで?」
「マジみたい」
「お題は?」
『……リィ、頑張って』
この後、知らずに寝ているリィに大変難しい難題をこなしてもらうことになる。
*
次の日。
「ラ・オ!私と流星にまたがって急降下しない?」
キラッっというあの伝説の決めポーズをしながら、リィ子で挑んだ。
「……」
あからさまな顔。
「…ぇ。何その顔!ねぇ、ちゃんと見てる焦点見つからないんですけど!!」
「……」
一日目。リウ撃沈。
*
次の次の日。
「なぁ、ラオ。俺と一緒にひなたぼっこしないか?」
「―――…っ!」
回りをキラキラさせながら言う。効果ありかと思いきやまさかの展開。
ラオンがいつも連れているみーちゃんと遊んでいるところを見られてしまった。
そのときのラオンの顔、一生忘れない。
「…貴様、見たな?」
「へ?…ちょ、たんま!待て!話せばわか――」
「問答無用!」
「ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアア」
「うわ!」
「なんだ今の…」
「…悲鳴?」
「……んー空耳かな!」
「そうだね!空耳…」
((((頑張れ、リィ!))))
*
次の次の次の日。
「ラオー!圧力鍋が手に入ったんだー!欲しい?」
「……っ!」
ラオンの目がギンと光った気がした。
「…ラオ?いる?」
「……」
こく。
ラオンは頷いた。しかもものすごく恥ずかしそうに。
「……よっしゃぁあああああああああ!!!!!」
「な、なんだ…」
「んーん。別に!」
これにて、お題「神座ラオンをオトせ」は終了した。
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当初はオールキャラの予定だったんですが、結局断念しましたマル←
無駄に長くなったとかきにしないうんそうだ。
ラオは照れると確実に萌えるタイプです。
09/12/13 (Sun) 藍月 廉
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