それは一年前の入学式まで遡る。
三人の出会い。
学生十題
去年の入学式。
それは現生徒会役員達がこの学園へとめでたく入学した日だ。
学校見学以来初めての水鏡学院。
まだ何処に何があるか分からなくて、新品の制服を着てしきりにきょろきょろと辺りを見渡していた頃。
そして彼等が出会った日でもある。
「…ぇと」
出席番号順に並んだ席に座って辺りを見渡す少女、来栖 有樹は朝に配られたクラス分けが載っているプリントを見て、順に名前を覚えようと頭の中で復唱する。
(麻野、朝比奈、石田、井上、岡谷、加藤、狩谷、木更津、木下――)
本来ならば男子、女子と出席番号が分かれているが、今年から共学になった水鏡学院は女子の人数が物凄く少ない。
おかげで出席番号は男女混合だ。
ざっと隣の列見て、視線を前へと移し、自分の前に座っている子を見る。
今は後姿しか見れないが
(久遠 神凪)
こう言っては可哀相だが、その子は男の子だけど女の子みたいに可愛かった。
身長も小さめで、小柄なふわふわした髪の子。
きっと私服で街を歩いていたら間違われるに違いない。
前の席だし気になるし、声を掛けてみようかなとも思ったが中々声を掛けられない。
と、言うか何故だが彼の傍にはいつも長身の男子がいる。
初めてこの教室に入ったときも、体育館に移動する時も、今も。
彼は霖月 灰、と言うらしい。
友達だろうか。
ずっと一緒にいるという事は、凄く仲が良いのだろう。
そう考えれば今声を掛けるのはどうかな、と思い、何となく掛けそびれていた。
(まぁ…今じゃなくても)
一年同じクラスで過ごすのだ。
幾らでも、機会はあるだろう。
とりあえず早く先生が来れば良いのにな、と思った。
*
機会は案外早くやってくるもの。
「―じゃあ、今日はすぐ下校するように」
「起立、礼」
担任が気紛れに当てた生徒が号令を掛け、合わせて頭を下げる。
そして話し声がちらほらと聞こえて、教室から出て行く子も何人かいた。
その教室から出て行く子に、灰も含まれていた。
よく見ると、彼の前方には先生が居る。
どうやら呼び出されたみたいだ。
前に視線を戻すと神凪は1人鞄に荷物を詰め込んでいた。
(今なら、良いよね)
正直言えば、灰は少し怖い。
ずっと仏頂面だから、何を考えているのか分からない。
まるで、壁を作っているようにも見える。
接した事は無いからまだなんとも言えないが、それはそれで気になった。
この機会を逃さないようにしようと、有樹は静かに席を立って前の席へ。
そっと声を掛けてみる。
「久遠、くん?」
「はい?」
声を掛けると顔を上げて神凪はきょと、と有樹を見る。
有樹はにこりと笑み、手を後ろで組む。
「後ろの席の、来栖です。宜しく、ね?」
言うと神凪は後ろの席を見て、また見上げるように視線を有樹に向ける。
そして神凪もにっこりと笑って
「はい、宜しくお願いしますね。来栖さん」
そう、満面の笑みで言った。
この子となら仲良く出来そうだな。
と、思っていたら。
右のこめかみに何かゴツゴツしているものが当たっている気がする。
神凪は有樹から見て右方向を見てあ、と声を漏らした。
その様子を見、何かよくないことが起きたのだろうと予想はついた。
何があるか分からない。ゴツゴツしたもの、と言われても全然思いつかなかった。
そ、と有樹が右を向くと、灰が銃を向けていた。
銃口はこめかみに当たっている。
「!?」
思わず後退りをする。
何故彼は今此処にいるんだ。
今さっき呼び出されていたじゃないか。
しかも何か、青筋が立っているように見えるのは気のせいか?
顔が凄く黒いような気がするのは、
気のせいじゃ、無い。
「…神凪に何してやがる…?」
「は」
素っ頓狂な声が出た。
何でこんなに怒っているのだろうか。
ただ、話し掛けただけなのに。
神凪はどうしたらいいかと席を立って混乱している。
そんな神凪を横目に有樹は真正面から灰に言う。
銃がまだ本物だとは限らない。ただ脅しているだけかも。
「話してただ、」
け、と言う前にパン、と大きな音がしたと思ったら有樹の頬を何かが掠めた。
あの銃は本物だったらしい。
掠めたのは銃弾だ。
ほんの少し、血が出ているような気もするけど痛くは無い。
(これ当たったら死ぬ…!?)
先程の銃声に教室にまだ残っていた生徒の視線は灰、有樹へと向く。
そして銃を見ると皆動きが止まっていた。
神凪もあー!!と言わんばかりの顔で固まっている。
このままでは他の生徒達も巻き込んでしまう。
「ま、待ってよホントに話してただけなんだってば!」
「そうだよ灰!話してただけ」
有樹と神凪が必死に言うと灰は暫くじ、と見ていたがやはり銃は向けたまま。
本当に何を考えているのだろうか。
手を忙しく左右に振って説得しようとするが
「ま、ちょーっううう撃たないで!て言うかなんでそんな物騒なも…」
また銃声がして、髪を掠めた。
緑の髪が切れて風に舞う。
「…っん持ってるんですかーぁ!」
そう
いきなり銃を向けてきて発砲した彼、
第一印象は最低だった。
その後有樹と神凪の必死の弁解により銃は仕舞ってもらえたけれど、灰は先生にまた呼び出されていた。
何を言われたかは、知らない。
それからと言うもの、時間は掛かったけど仲良くしている。
だが、まだ怒るとすぐに銃を向ける癖は直っていない。
…あれ?何で銃は取り上げられないんだろう。
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灰はただ、神凪がお気に入りで、不器用なだけだと思うのです。
んでもって女の子でも男の子でも容赦無いんです。神凪クン大好き少年です。(あ、別に変な意味じゃないですよ!)
’07/09/12 (Wed) 観月 秋夜
お題お借りしました →capriccio 学生十題