夏休みまであと数日。
水鏡学院も大掃除やら通知表でいつもより騒がしい。
そんな中忙しいにも関わらず呼び出しを喰らった5人は理事長室に来ていた。
呼び出した本人は彼等には視線を向けず、机の上の紙の山を次々と読みサインをしている。
「忙しい中悪いねー。思い出したときに言っておかないと忘れそうだったからさ」
「いえ。それで話というのは?」
神凪が話を催促すると理事長は書類に走らせていたペンを一旦止め、座り心地のよさそうな回転椅子の背凭れに身を預けると言った。
「君たちには夏休みに入る前に、最近噂になってる水鏡学院にまつわる七不思議の解明をして欲しいんだよね」
「七不思議…ですか」
「あ、私も幾つか聞いたことあります」
有樹はトイレの花子さんとかは王道ですよねーと笑う。確かに何処の学校に行っても花子の話はある。
あと音楽室のピアノとかね、と理事長も一緒になって笑うと身を起こし机の上に視線を滑らせる。
「一通り噂になってるやつはこっちでリストアップしてあるからそれ使って…えーと」
どこやったかな、と呟きながら紙の山の中を探し始める。本当にそこにあるかも怪しい机、と言ったら失礼だろうか。他に言葉を使うならば、カオス、混沌。あまり変わらない。
そんな机に手を出すと余計なことをしてしまいそうだ。所有者以外触るべからず。
「あったあった」
紙と紙の隙間から引っ張って出てきた紙を神凪へ渡す。他の4人は左右から覗き込む。紙に皺は意外と寄っていなかった。
寄っていたとしてもそんなことは大した問題ではない。
問題があるのは
「これ七不思議どころじゃないじゃないですか!」
ざっと見ても10は超えている。七不思議は七つあるからこそ七不思議と呼ぶのではないか。これでは怪談というのが正しい。いやいっそそんな事はどうでもいい。
それよりも気になることが多すぎる。そして突っ込まずに居られなかったのは黎だ。
「これとかそれとか絶対理事長が原因だと思うんですけど」
走る理事長象 が 目からビーム
喋る人体模型
「……」
揃って無言で理事長を見ると、意図を感じ取ったのか理事長は右手を左右に振って弁解する。
「いやいや、確かに幾つか心当たりはあるけど全く無いのもあるんだ。だからお願いしてるんだよ?」
「あるんじゃないですか」
「絶対この辺理事長の所為だと思うんですけどー」
「つかどれもなんかおかしくね?」
「目からビームとかなんだよ」
間
「じゃっ早速今日頼むよ!」
何時の間に移動したのか、理事長は出入り口の取っ手を握って逃走準備万端だ。
「夏休みまでに全部調べてまとめたら提出すること!それじゃあ頼んだからね」
語尾に星が付きそうなふざけた声。止める間もなく仕事を押し付け、にっこり笑って理事長室から飛び出した部屋主を追って廊下へ飛び出したが姿は何処にも見当たらなかった。
流石、校内はヤツの庭だ。
彼らは視線を交わし、一部は意外と楽しみそうに笑み、一部は溜め息をひとつ。
彼らの夏は、始まったばかり。
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夏と言えば、海、花火、怪談。今回は怪談にチャレンジです。
08/08/11 (mon) 観月